パーキンソン病の1症例

目安時間9分

これも古い症例になります。ようやく切経ができるようになったころでしょうか。望診はしていませんが、自分の手の感覚を信じて取穴した症例です。

 

パーキンソン病の1症例

 

1患者 49歳 男性 教師

 

2初診 平成21年5月21日

 

3主訴 手の振るえ 手の痺れ(常に手袋をしているよう)、歩行時の無力感、時々前につんのめるような感じになる。左下肢の落ち着きの無さ、常に気になって動かさずにいられない。(左下肢についてはかなりイライラするらしい)

 

4望診 中肉中背だが剣道の有段者ということもあり、筋肉質。緩慢な動作。尺部の色は全体的に黒ずんだ感じ。

 

 

5聞診 穏やかで高音でも低音でもなく中程度の音質。声質に濁りも無く流暢だが、力のない感じ。五音・五声は判別せず。

 

6問診 3年前に発症。半年前まで病院にて投薬治療を受けていたが、改善しない事に絶望して自己判断で治療を中止。今回は父親に説得されての受診。

既往歴、現病歴とも特記事項なし。症状は徐々に悪化しているように思うとの事。とにかく左下肢が気になり夜眠れないこともある。手足に力が入らない。無気力感。食欲はあり。(ただ、左下肢についてはRLSを疑う)

 

 

7切診 全身的にこわばりがみられる。ムノ、ナソ部ともに全体的に硬い。手足は暖かく、本人も冷えは感じないとの事。診察ベッドに横になってもらっても、常に左下肢が気になり、じっとしていられない。左足甲部に湿疹がみられる。皮膚科の診察を受けるが原因不明。

 

8腹診 全体的に固い。大腹と比べると小腹に力がない。とくに肝の見所に虚が見受けられる。冷えた感じはなく温かい。

 

 

9脈診 脈状は浮・数・虚 沈めると全体的に堅く、荒々しい脈状。比較脈診は左手尺中の腎もっとも虚。関上の肝は堅く荒々しいが、沈めると力なく、実とはみれない脈で、虚と判断する。右手関上、脾もやや虚にみえる。浮かせて膀胱、胃、胆やや実。他は平。所見は以上です。

 

10病症弁別  手足にみられる病症は肝木の変動。湿疹は肺金もしくは脾土の変動。無力感は脾土の変動。皮膚の色、就寝時の不調は腎水の変動。四診法から肝脾相剋を疑うが、脾の病症に乏しく肝虚としたが、肝脾相剋証も念頭におく。

 

 

11予後と治療方針

定期的、長期的な治療は必要であろうと思う。

定年までは教師をつづけたいという本人の希望になんとか応えたい。

パーキンソン患者は自覚症状には表れていなくても頭部に気の滞りがある事は間違いなく、標治法では頭鍼も有効との報告も聞く。そのあたりも考慮にいれて治療をすすめたいと思う。

用鍼は銀鍼寸6、2番。ステン鍼寸6、2番。補助と検査用に銅とアルミの堤鍼を使用。

 

 

12本治法

男性だが左の症状が強く、右適応とした。

 

定則どおり右の曲泉を取穴。入念に補い、弦絶のごとく抜鍼、鍼口を閉じる補法をおこなう。

 

検脈すると肝の堅さがややとれて艶をおびてきたように感じる。沈めてみても脈の形を感じるようになっている。

 

続いて同側の陰谷に同様に補法を加える。

 

脾に関しては平に落ち着いたとみえたので処置をしないで様子をみる。

 

続いて陽経。胃経および胆経に指の腹につくような脈を感じる。

 

陽経の処理として、左足三里、光明に補中の寫を加えた。

 

再び検脈すると浮脈は平に近づき、堅さがとれ潤いをおびた脈となったので様子をみることとした。

 

 

13標治法

パーキンソンの特徴として筋のこわばりがある。ナソ、ムノだけでなく、腰周辺や項頚部の固い部分にも標治法をくわえる。指先で反応点や硬結をさがしながら鍼を加え、鍼が自然に進むところまで刺入。緩むのを待って抜鍼。腰および項頚部全体に鍼を加え、最後に頭部の虚の反応点に補的鍼を加えて終了。

 

14経過

施術終了後は少し気分がよいとの事。継続治療を希望されたので最低週1回以上の通院を指示して1回目の施術を終える。

 

2回目、治療は初回時とほぼ同様。

 

3回目、食欲不振、やや下痢ぎみとのことで脈差診の結果肝脾相剋証で施術。

 

4回目、前回までで、施術終了後は気持ちが良いとのことだが、実際の症状にはまったく変化はなく術者側からみても客観的に変化しているとは捉えられず、再度入念な四診をおこなう。

 

結果、やはり肝虚で治療をおこなうが適応側を右から左に変える。

 

理由は切診による反応点が左側に多数みられたこと。

 

入念な切経での反応点検索と提鍼による検査により左大敦穴に銀鍼寸6、2番を用いて施術。鍼を穴所にあて静かに待つ。

左下肢全体のかすかな震えが治まるのを待って静かに抜鍼。

 

続いて同側の太谿穴に補法。

脈状の変化も平に近づいたが、なにより患者本人が左下肢が熱く感じ気持ちがよいと言う。

震えも若干おさまったようにみえる。

 

標治法は前回までと同様に終え、様子をみる。

 

5回目、前回施術後、1~2日は下肢に力が入るようだという。ただし手の震えは変化なし。本治法は前回同様。

 

陽経の処置にも再度切経をやりなおしたが、やはり前回までと同様の処置。

 

標治法は前回までと同様。

 

そのほかに反応点にたいする処置をおこなう。手の震えに対して頭部の気の滞りを改善するために百会、左湧泉、顖会、中極を取穴。背中のこわばりに対して両腎兪、両肺兪を取穴。

 

いずれも反応点をとったものであり、ステン鍼寸6、2番を置鍼。

 

6回目、前回施術後、手の痺れが改善されたように思うとのこと。手にも力が入るようになったようにも感じる。ただし手の震えは変化なし。

 

本治法、標治法とも前回同様だが、ナソ・ムノ、項頚部への硬結部への鍼は止め、百会、左湧泉、顖会、中極、両腎兪、両肺兪への置鍼のみとした。

 

さらに左湧泉、中極、両腎兪へは知熱灸を各3壮くわえた。

 

今回は施術中約40分間だけの間であるが左下肢を動かさずにじっとしていることが苦痛でなくなったこと。これは患者がもっとも苦痛を訴えていた症状であり、おおきな改善と思われる。

 

施術直後より手に力がはいるようになったことなど変化がみられるようになった。

ただし、手の震えは同様にある。

 

以上が現在までの経過である。わずかずつではあるが、良い変化が見られるようになってきたので以後も施術を継続しておこなうことを約束していただいた。

 

 

15反省と考察

4診目以降の本治法は当会の定則取穴とは違うものである。

 

決して奇をてらったわけではないが、反応の強いほうを選んだ結果、このようになってしまった。それは私自身の診断能力や施術能力の不足の結果であるかもしれないが、その判断は現時点では私にはできない。

 

また、手の震えに対して上肢および手には施術を加えていないが、過去、直接手に鍼をしてもよい結果を得られた経験がないことと、どうしても反応点が上肢・手にとれなかった結果である。頚肩部への施術で多少の改善が見られるようになったのでいましばらく様子を見ようと思う。

 

 

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東洋医療技術研究会

現代表は勝木れい子

鍼灸師(赤門鍼灸専門学校卒)

経絡治療学会の学術部長を経験

のち「気と経絡」の研究に没頭する。

現在は望診法講座「気流診」の講師

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